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ORGAN-O-ROUNGE P L D MYSPACE
futron ALBUM / 2003
futron
1.futron 2. film 3. spindle 4. gift 
5. 6/20 6. polyamine 7. dream
いつだって、オルガノラウンジの音はひっそりと、さりげなく届けられる。前作の淡い記憶がいつしか空気にとけ込み、それと意識しなくなったときに、ゆったりとした目覚めを促すかのように。それはぼくにとって、いつだって心地よい、夢を見るような体験だ。だが、それでけではない。彼らの音楽はただの心地よいだけの現実逃避ではない。  昨年4月にリリースされたミニ・アルバム以来『Calmwarm』以来の新作である。一聴して、ヴォーカルが前面に押し出され楽曲指向が強まっていると感じた。もちろん彼らはこれまでも、自在な音響エレクトロニカ的な音作りを展開しながらも、「うた」としての整合性も重視してきた。ただ雰囲気だけではない歌詞のテーマ性や文学性を忘れないことで、表現者としてのしなやかな思想、あるいはしたたかな身体性を獲得していた。
 だが、それでもなお、本作でまず耳につくのはホンダヒロシの声であり、彼が紡ぎ出すたおやかで優しく、だがどこか生々しい現実との接点を感じさせるストーリーである。これまではうた重視とは言っても、ヴォーカル/声もまたインストゥルメンツのひとつとして配置することで、彼らは独特のなめらかで美しい世界を形作ってきた。それが、今回はヴォーカル/うたを中心に、それをバックアップするような形で全体のサウンド・プロダクツが構成されている印象がある。言い方を変えれば、言葉からイメージがふくらんでいったようでもある。実際にそういう意図があったのかどうかは本人たちに訊くしかないが、そうした音作りにシフトすることで、オルガノラウンジの音楽はより明確で骨格の太い起伏に富んだものへと変化した。決して声高にならないが柔らかで懐の深いヴォーカルが、ここではより説得力をもって迫ってくる。その結果くっきりと浮かび上がってくるのは、失われていくもの、失ってしまったものへの痛みと悲しみ、そして最後のどんづまりで立ち上がってくる再生と希望の物語である。
 前作の「Warmonger」のような強い言葉、直截なメッセージはない。だがそこでの認識はもはや当然の前提であり、オルガノラウンジが語ろうとしているのは、その先の「僕らの未来」である。世界の不条理と病理に立ち向かい、思考し、ひそやかな声をあげるオルガノラウンジの音楽は、まったく申し分なく力強く美しく、鳴っている。
小野島 大
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